キミが欲しい、とキスが言う
「ちょ、ちょちょ待った」
「なんで」
「言いたいことは分かったけど、あなたの親からまだ結婚の了承をもらってないわ。つまりまだ子作りはしないわよ?」
馬場くんはキョトンとした顔だ。私を押し倒した状態で、少し目を泳がせると「ああ、そういやそうか」と納得する。
「あの感じじゃ反対しなさそうだけどな」
「でもダメよ。今はダメ」
「でも俺、もうだいぶその気になったしなぁ」
お腹の方からカットソーの中に手を入れてくる。
確かに今まで我慢してたんだな、と思うくらい本当に付き合うことになってから遠慮がない。
この人、肉食男子だったのね。
睨みつけてやったら、馬場くんは頬にキスを落とした。
「じゃあ茜が俺のこと名前で呼んだらやめるよ」
「えっ」
「いつまでも馬場くんって呼ばれるのもちょっとね」
それは、確かに自分でも思っていたけど、今更変えるタイミングもつかめなくて。
でも、この状態で言えって言われるのも相当に恥ずかしいんですけど。
「言わないと襲うよ?」
若干の本気を感じ取って、慌てて「ゆ、幸紀」と口にすると、彼は笑顔で「も一回」という。
「幸紀。……もう勘弁して」
「ん」
そこで彼は、腕を離すどころかキスをしてきた。
「ちょっとー!」
「ヤバい。可愛いし。ムラムラしてきた」
「嘘つきー!」
……結局、私は彼のなすがまま。真昼間だってのに変な声を出しまくってしまった。
さすがに、避妊はちゃんとしてくれたけれど。これ、結婚したら本当にすぐ妊娠しちゃうかもしれない。
荒い息のまま、汗ばんだ彼の額を撫でると、子供がするような無邪気な顔で笑われた。
「こんな毎日も、いいね」
「かなり本能に忠実だけど?」
「仕方ない。好きなんだし」
そんな風に言われちゃたら、まあ確かにそうかななんて、丸め込まれる私。
「幸紀。これからもよろしくお願いします」
「こっちこそ」
そうして、私は彼にキスをする。
――キミが欲しいと伝えるキスを。
【Fin.】