キミが欲しい、とキスが言う
「遅れてすみません」
「ああ、数家。待ってたぞー」
高間さんが朗らかに手を振る。仲道さんはすでに真っ赤になっており、馬場さんは相変わらず静かに杯を開け続けている。
「今、幸紀の引っ越し先の話聞いてたんだよ」
最近、馬場さんは引っ越しをした。それが茜さんの隣の部屋だというから、笑い事にならない。彼女に気があるのはなんとなく気づいていたけれど、いきなりその行動は一般的にはドン引きレベルだろうと思うのに。
「どうですか? 部屋の感じとか」
「……ボロいよ。音響くし」
「さっきから、ひどいんだぜ、言ってることが。何がよくて引っ越したんだよ、お前ー」
事情を知らない高間さんは、カラカラ笑いながら突っ込んでいる。
前の馬場さんのアパートは、場所こそ遠いものの、駅近くのしっかりした建物だったはずだ。
部屋のレベルを落としても隣の部屋がよかったというなら、やっぱりストーカーに近いのかもしれないと思わざるを得ない。
思えば店長はロリコンで、従業員はストーカーとか。
うちの店は大丈夫なんだろうかと不安になるな。
「そういや、最近馬場、昼番ばっかりだよな。なんでだ?」
真っ赤な顔で仲道さんが尋ねる。
「まずいですか?」
「いや? 夏休みになれば、俺あんまり昼入れなくなるから助かるけどさ」
「ならいいじゃないですか」
馬場さんは静かに受け流してく。仲道さんは酔ったとき特有の口の軽さで、続ける。
「そういや、どうだったのお前、茜ちゃんとのデート」
仲道さんの言葉に、高間さんがぶーっと吹き出した。