キミが欲しい、とキスが言う
「なにそれ。俺知らねぇけど。馬場、茜さんと付き合ってんの?」
「付き合ってはいません。今口説いてるとこですよ。……仲道さん、内緒にしてほしいって言ったじゃないですか」
「あれ、そうだったか。悪い悪い」
謝罪に本気が感じられない。
どうも飲み過ぎのようだな。
俺は馬場さんと仲道さんの間にある、日本酒の一升瓶を手に取った。
『幻の瀧』という北陸の酒だ。すっとした香りで飲みやすい。三人ですでに三分の二ほどあけている。
とはいえ、瓶でここにあるということは一本買取で注文したんだろう。
これ以上皆が飲む前に自分で減らそう。
「まあ、ここまで言ったら教えてもいいだろ。今馬場、茜さん口説くのに必死も必死で。この間もうちから車借りて行ってさ」
「マジで!」
「ご機嫌で帰ってきたよな。いい感じだったんじゃないのか?」
盛り上がる仲道さんと高間さん。静かに飲み続ける馬場さんの額に、なんとなくだけど、青筋が見えるのは気のせいか。
しかし酔いが回った仲道さんほど、空気を読まない人はいない。
加えて、いつでも陽気な高間さんは、どんどん話を盛り上げて行く。
「だから、今日の幸紀、橙次さんにやたら突っかかっていったのかぁ。好きな相手の元カレだと思えばムカつくよなぁ」