キミが欲しい、とキスが言う
「先にこっちだろ。もう六年か」
「イチくんのエッチ」
「寝込みを襲いに来たのは瑞菜の方だろ」
同い年の俺たちは、そろって三十九歳。決していちゃつくような歳でもない。
とはいえ、くりっとした丸目、丸顔の童顔なこいつは二十代で通用するほど見た目は若い。
そして俺は、このいつまでも子供みたいな妻に今でもぞっこんなのだ。
「くすぐったいよ、イチくん」
そんな余裕のある発言、いつまで言えるかな。
瑞菜を抱きしめたまま体を反転させる。ベッドにひざを立て、上から彼女を覗き込む。
丸っこい鼻、小さくてふにゃふにゃした体、その割には大きな胸。可愛いと思うところを順になぞってく。
「あはは、んっ、もうっ」
声のトーンが変わっていく。朝の瑞菜から夜の彼女を引っ張りだす時の、俺にしか見せない表情が大好きだ。
朝な夕なに、彼女を追い込んだ新婚時代をふっと思い出す。
「やだ、イチくん」
「嫌よ嫌よも好きにうち……」
ってやつだろ、と続けようとしたところで、開けたままにしているドアからいつもの邪魔者たちがやってきた。
「ママぁ。お腹空いたぁ」
腕に熊のぬいぐるみ、もう片方に弟の手を引いた六歳の長女、百花(ももか)だ。二歳下の弟である千利(せんり)が目をこすったままついてきている。ふたりは隣の部屋で寝ているのだが、寝る直前まで瑞菜が傍についている。そして、朝起きていないのを確認すると必ずこの部屋にやってくるのだ。