キミが欲しい、とキスが言う
弁明しようとしたとたんに、百花の子役もびっくりの泣きの演技が始まる。
「パパ冷たい。もものお願いも聞いてくれないんだ。キラキラシールメーカーだって買ってくれなかったし」
「いや、そういう話じゃないだろ」
そっちは、なぜ誕生日でもクリスマスでもないのにおもちゃを買うんだよって話じゃん。
「いいのよ。もも、せんちゃん、ママが我慢すればいいんだから」
「ママぁ」
殊勝にぽそりとつぶやく瑞菜のせいで、子供たちのなかですっかり悪者なのは俺らしい。
さっきから冷たい視線が痛くて寝てられない。
「分かったよ! もう」
「わあい、じゃあご飯作ろうっと。ももちゃん、せんちゃん、パパとゴロンってしてる?」
「もも、ママと行く」
「せんちゃんも!」
ぬくもりが、次々と俺のそばから離れていく。
子供たちは瑞菜が大好きだ。構ってもらえないと分かっていて彼女についていく。
俺はいつだって彼女の格下。
「……畜生。ふられろ、馬場」
せめて賭けには勝ちたいと、縁起でもないことを願いながら俺は二度寝につく。
【Fin.】