キミが欲しい、とキスが言う
並べて敷いたもう片方の布団に体を滑り込ませる。
「う」と小さな声を出して寝返りをうった浅黄は、一瞬目を開けたような気もしたけどすぐに寝入っていった。
足先を浅黄の布団に入れてみると、ホコホコに温かい。
ぎゅっと抱きしめたいけれど、この時間に起こすのも忍びないから我慢しよう。
「ただいま、浅黄」
カーテンの隙間から差し込む月明かりが、我が子の金色の髪を照らす。
彼と同じ、金の髪。少し切ない気分になりながら、髪にそっとキスをした。
*
電気を消して三十分経っても、眠気が訪れてくれない。
いつもならすぐ寝ちゃうのになぁと、もう何度目かわからない寝返りを打つ。
誰のせいかといれば馬場くんのせいだ。
目をつぶると、さっきのキスを思い出してしまう。
体目当てって言ったら怒ったくせに、許可もなくキスを奪うのはどういうことだ。
訳わかんない。
無口な人だなとは前から思っていたけれど、こんな変な人だったのか。
唇を指でなぞる。感触を思い出すと、なんだか体が疼く。
彼の気持ちは別に伝わらないけど、キスがうまいことだけは確かだ。
橙次と別れて以来、私は誰とも付き合っていない。
ちょっとのきっかけで欲求不満の体がわめきだしそうで怖かった。気を付けないと流されそうだ。
しっかりしなきゃ。私は浅黄の母親なんだから。
再びぎゅっと目をつぶって、深呼吸をする。
暗い部屋に、浅黄の寝息が響く。
普段の呼吸より、力が抜けてゆったりとした呼吸。寝息を聞いているのは好きだ。なんだか心が落ち着いてくる。
体の向きを変え、浅黄の横顔を眺めた。
幼いながら、彼に似ている。彼も、眠っているときが一番落ち着いているような人だった。
どうしてこんな風になっちゃったのかな。
浅黄の寝息を聞きながら、ぼんやりと昔のことを思い出した。