キミが欲しい、とキスが言う



 今は九月の終わり。秋とは言ってもまだ暑く、紅葉にはまだ早い。夏の名残がいたるところに見受けられる。
まもなく到着のアナウンスにせかされるように、車内で食べたお弁当のごみをひとまとめにし、荷物を持ち上げた。

駅の改札を出ると、大きく手を振っている女の人が目に飛び込んできた。
ジーンズにマドラスチェックの七分袖シャツを合わせた素朴な格好で、髪が短くよく日に焼けた健康的な印象の人だ。年齢は、私よりは少し上のようにも見えるけどどうだろう。


「幸紀くん、こっちこっち」

「義姉さん、迎え悪いね。ありがとう」


似てないけどお姉さんなの? と驚いて見つめていると、幸紀が近くまで行ってから紹介してくれる。


「こちら、兄貴の嫁さんで、江津子(えつこ)さん。義姉さん、こちらが俺の彼女の茜、そして彼女の息子の浅黄くん」

「はじめまして。うわあ、すごく綺麗な人だねぇ。浅黄くんも、よく来てくれたねぇ」

「あ、あの。ありがとうございます」


浅黄の金髪に驚いた様子もなく、親し気に話しかけられて、浅黄は戸惑ったように頭を下げる。
私も脇で「よろしくお願いします」と続けた。

よかった。とりあえずお義姉さんはいい人そう。
ホッとして胸をなで下ろしている私の向かいで、江津子さんも落ち着かなさげに胸の前で組んだ手を動かしていた。
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