キミが欲しい、とキスが言う


「あの、……麦原茜(むぎはら あかね)と言います。こっちは息子の浅黄です。お忙しいところに来てしまったみたいですみません」


ふたりで頭を下げると、お義母さんはばつが悪そうな顔をした。


「あら。嫌だ、ごめんねぇ。そういうつもりじゃないのよ。えっちゃん、お客さん、中にご案内して?」

「はい。どうぞ、茜さん。浅黄くん」


江津子さんが苦笑しながら私たちを招き入れる。
どうしたものやら悩みつつ、「なんか、……すみません」と江津子さんに謝ると、彼女は小さく首を振った。


「お義母さん、幸紀くんのこと可愛がっているから、急に結婚したいとか言われてびっくりしてるのよ」

「はあ」


でも幸紀は三十一歳だ。結婚自体を反対されるような年齢じゃないんだから、やっぱり私が気に入らないんじゃないのって思うんだけど。

通された和室に並んで正座する。江津子さんはそのまま「お茶入れるから座ってて」と台所の方に向かってしまった。


「あ、お構いなく」


出すタイミングを逃したお土産をどうしようか考えていると、今度は戸口から幸紀の声がする。


「浅黄、手伝え」

「え? はいっ」


浅黄はいい返事をして立ち上がると、私と顔を見合わせた。


「……行っていい?」

「いいわよ。というか、私も行くわ」


荷物は置いたまま、ふたりで再び玄関へと向かう。
幸紀は玄関先に着てきたシャツを脱ぎ捨て、Tシャツ姿になっていた。

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