キミが欲しい、とキスが言う
「近くの家のコンバインが壊れて、稲刈りの人手が足りないらしい。俺も手伝いに行くから、浅黄もついてこいよ」
「えっと、はい」
「幸紀! お前、お客に何させる気だい」
お義母さんが怒り出す。それに驚いたのか、浅黄は動きが止まってしまった。
幸紀は浅黄の肩を掴んで引き寄せ、私の腕も引っ張り近くに寄せる。
「じゃあ先に言っておくよ。俺は彼女……茜と結婚するつもりだから、ふたりともお客じゃない。浅黄は俺の息子だ」
「幸紀」
「俺は紹介しに来ただけで許可をもらいに来たわけじゃないからな」
何でケンカ腰でそんなこと言っちゃうかな。
嬉しいけど……角が立つじゃないのよ。
喜んでいいやら悲しんでいいやら分からず、私はちょっと途方に暮れる。
彼は、お義母さんの反応には興味がなさそうに、浅黄に上に来ているシャツを脱ぐように手振りで示すと、優しく笑いかけた。
「いいか、浅黄。田舎じゃ小学生はもう戦力扱いだ。稲を運んだり汚れる仕事がたくさんあるけど、頑張れるか?」
「うん、大丈夫」
「いい返事だ。茜、ほっといて悪いけど、ちょっと行ってくる」
「えっ」
私ここに置いてかれるの?
今現在、すっごい気まずいんですけど。
とはいえ、この状況でごねるわけにもいかないわよね。
「……分かったわ。浅黄をよろしく」
彼を信頼して任せるしかないだろう。
笑顔を作って見せると、幸紀は笑って江津子さんを呼ぶ。
「なに? あれ、どこか行くの?」
「俺たちも手伝ってくるよ。車貸して」
「ああ、はいはい」
ワンボックスカーの鍵が、江津子さんの手から幸紀に移る。
「ちょっと行ってくる」
とさわやかに笑い、浅黄を車に一緒に乗せて走り去ってしまった。