キミが欲しい、とキスが言う

「浅黄の父親とは結婚していないんです。当時は留学生で、彼は浅黄の存在を知らないまま帰国しました。その後再会しましたが、気持ちは離れていたので、彼とやり直すことはありません」

「じゃあシングルマザーだったの」

「はい。それもあって……仕事は金銭的に割のいいものを選んでいました」


ここはちょっと言い訳かな。
ホステス業が嫌いだったわけじゃないもの。


「ふうん、苦労していたのねぇ」


お母さんの声が少し好意的になったような気がする。
ホッとして、江津子さんを見たらお茶のお代わりを注いてくれた。そこで、お土産の存在を思い出す。


「あ、すみません。遅くなったけど、これお土産です」

「あら、ありがとう。えっちゃん、開けてよ。いただこうか」

「はい。お義母さん」


江津子さんはふんわり笑うと封を開けてお菓子皿に盛ってくれた。

結婚して何年なのか分からないけれど、お義母さんと江津子さんはすっかりいいコンビって感じなんだな。
江津子さんは出しゃばるでもなく、かといって黙っているわけでもなく、場を和ませてくれる。
これで見た目が派手なら、ホステス業界では重宝されるようなタイプだ。


「まあ、幸紀は何言ったって聞きやしないからさ、反対しても仕方ないなと思ってるんだけど。幸紀のことは大事にしてやってほしいんだよ」

「はい。もちろんです」

「あなた綺麗だしさ。都会には幸紀よりいい男なんていっぱいいるだろうし」

「……幸紀さんは、私が今まで出会った中で一番いい男ですよ」

「あら、ありがとう」

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