キミが欲しい、とキスが言う
海苔を準備するためにお義母さんが席を外したタイミングで、江津子さんに「ありがとうございます」と耳打ちした。江津子さんも秘密の話をするように目くばせする。
「敬語なんて使わなくていいよ。歳も近いし、仲良くしよう?」
「はい」
「私と茜さん、同い年なんだって、幸紀くんが言ってた。でも見えないねぇ、茜さんすごく綺麗で若く見えるもん」
同い年なんだ。
年上かと思っていたので、それには確かに少しびっくりした。
でも、この年の綺麗は見た目だけじゃないって私はもう知ってる。
江津子さんみたいに、自然に人に優しくできる人、誰からも信頼されるような人が、きっと本当の綺麗だ。
「そんなことないです。江津子さんの方が優しくてすごく素敵」
そういうと、困ったように笑われた。本心なんだけど、伝わらないかなぁ。
やがて出来上がったおにぎりとお茶を持って、今度は軽自動車に三人で乗った。この家、いったい何台車があるんだろう。
「これは普段私が乗っているやつ」
そういって江津子さんが笑い、運転してくれる。
少し走った先にある田んぼには、人が集まっていた。コンバインが田んぼのへりに寄せられていて、数人は田んぼの中に入って手で刈っているようだ。
「おーい。おにぎり持ってきたよう」
江津子さんの声に、みんなが振り向く。その中に、浅黄の姿もあった。髪も泥だらけでいつもは目立つ金髪がまだら模様になっていた。