キミが欲しい、とキスが言う
「お疲れさま。今日はありがとう」
「なんで。礼を言うのはこっちだろ。……ありがとな」
幸紀の細い瞳が、どことなく優しい。一緒に暮らすようになってもなお、こんなタイミングには心臓が高鳴る。
平常心がどこかに行ってしまいそうだった。
「わ、私、シャワー浴びるわ。汗かいたし」
浅黄の部屋で変な空気になるのも困るので、と逃げるように部屋を出たら、バスルームの入り口で追いつかれた。
「俺も入る」
「先……入りたい?」
「いや。一緒に入ろう」
「え」
ちょっと待って。それは予想していなかったというか。
私、男の人とお風呂に一緒に入ったことないんだけど。
「洗ってやるよ」
耳打ちされた言葉で、思考がストップした。
これでもホステスとして、今まで男をうまくあしらってきたつもりだ。
口説き文句には笑顔で拒絶。過剰なお触りには、一度抱き着くくらいまで近づいて相手が気を許したところで逃げる。
裸の付き合いが恥ずかしいって訳でもない。プライベートで付き合った男とは、好きなように触れ合い、激しいセックスもしてきた。
だけどお風呂ってなんていうか、私にとっては準備するための場所っていうか。プライベート中のプライベートな空間なんだけど。
実家のお風呂はボタン一つで操作できる自動給湯システムで、いつの間にスイッチを入れていたのか、湯船には適温のお湯が溜まっていて、浴室は湯気で曇っている。
逃げるように先に入ってきた私は、珍しく緊張しながら頭上から流れるシャワーを全身に浴びる。
裸は何度も見られているはずなのに、すごく恥ずかしい。