キミが欲しい、とキスが言う

一方の彼は平然と入ってきたかと思えば、湯船に溜まったお湯を洗面器ですくって、自分の体を流している。


「茜、座れば」


お風呂用のイスを勧められ、スポンジ片手にボディソープを泡立てる彼。首筋にそれを当てられた瞬間に、全身が飛び跳ねそうになる。


「やっぱり自分で洗うからいい」


スポンジを奪い取ろうとしたけど、「嫌だ。反応面白い」と彼は笑う。
こんな時ばかり、年下らしいやんちゃな顔で。

そのまま、スポンジは背中や腕を伝い、背中から包み込むようにして、今度は胸やお腹を洗われる。スポンジはいつしか床に投げ出され、そのままの彼の手が、ボディソープの泡とともに私の体を行き来する。


「……こんな触られ方したことない」

「俺もこんなことするの初めてだよ」

「子供みたいよ、体洗ってもらうとか」

「子供だなんて思ってないけどね」


シャワーのコックがひねられる。泡を洗い流された私の肌は、熱を持って少し火照っている。そこに、彼の唇が落ちてくる。


「子供に欲情とかしないしね」

「んっ」

「抱きたい、茜。抱いていい?」


そんなの、こっちのセリフだ。
撫でつけられた体は、あなたが欲しくて疼いているというのに。

< 210 / 241 >

この作品をシェア

pagetop