キミが欲しい、とキスが言う

「さっさと着替えろ、お前ら!」


店長が一喝して扉を閉め、房野を抱き寄せる。

密着し過ぎだろう。おいおい、仕事中ですよー。


「大丈夫か、つぐみ」

「すみませんっ、大丈夫です」

「大丈夫じゃないですよ。興奮で赤くなってますけど、さっきまで青ざめてましたし。店長、一緒に住んでるならちゃんと体調管理してあげないと」


呆れつつ、若干の嫌味も込めてそういうと、店長は眉をひそめて嫌そうな顔をする。


「俺はちゃんと食わせてるぞ?」

「数家さん、私、大丈夫ですから」


必死にかばおうとする房野を見ていると、さすがにこれ以上の追い打ちをかけるのも気が引けるので黙る。
すると、扉が開いて着替え終えた馬場さんが出てきた。


「つぐみちゃん、驚かせてごめんな。じゃあお先っす」


頭をポンとなでつけ、店長に軽く頭を下げて店を出て行った。


「……なんか、最近馬場さんよく笑いますよね」


優しくなった気がします、と付け加えた房野を見て、そう感じているのは俺だけじゃなかったのかと思う。

男が変わるきっかけなんて、案外単純なものだったりするし、やっぱり、茜さんと上手くいったのかも知れない。


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