キミが欲しい、とキスが言う


 そして、月曜の夜。
俺は再び【アイボリー】への残食の配達を頼まれた。
昔、茜さんと付き合っていたころは店長が自分で行っていたのに、結婚した途端に人任せだなとちょっと呆れる。


「いつも悪いわねぇ」


最近、俺が運んでくることが通常運転になっているためか、オーナーのまり子さんも気安く話してくれるようになった。


「今日も茜さんいないんですね」


思えば、馬場さんが遅番で入る日は茜さんがいない率が高い気がする。


「そうね。……でも茜ちゃんはそのうち辞めるかもなぁ」

「そんな話がでてるんですか?」

「男ができたのは間違いないと思うわ。あの子、プロ根性はあるからね、プライベートと仕事ってちゃんと分けるのよ。それが、あんなところに痕つけさせるなんて、あり得ないことよ。それだけのぼせてるってことじゃない?」

「痕って……」


まり子さんがにやりと笑って自分の胸元を指さす。
そんなところにつけられる痕と言えばどんなものかは決まっているというものだ。


「……あー。そうなんですか」

「まあ年齢的にもちょうどいいかもしれないよね。あの子自身、今後のことは迷ってるようなところあったしさ。まあ私はいいのよ、茜ちゃんも苦労してるし、幸せになってほしいもんねぇ。ただ男運は無い子だから、そこだけが心配だけど」


まるで母親のようなことを言いながら、まり子さんはほうとため息をつく。


“茜さんに男ができた”、“馬場さんの機嫌がいい”
二つの情報を合わせれば見えてくる結果は一つ。


「多分大丈夫ですよ」

「……何がだい?」


不思議がるまり子さんに簡単な挨拶をして、俺はアイボリーを出た。

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