キミが欲しい、とキスが言う
「やあねぇ、イチくんたら飲み過ぎて」
パジャマにカーディガンを羽織った格好で出てきた奥さんはあっけらかんと笑うと、彼女よりも格段に大きい仲道さんを受け止める。
「すみません、ホントに」
こういう時、正気が残っている方がいたたまれない気持ちになるのはなぜだろう。
「いいのよ。連れて帰ってくれてありがとう」
笑ってもらえて、ようやく肩の荷が落ちた気持ちになる。
いい奥さんだな、と嫌味なく思えて、不意に自分も人恋しくなった。
長い一日の終わり、怒られるのは承知で、俺は彼女にメールを送る。
【起きてる?】
その答えは予想外にすぐに戻ってきた。
【会いたいなら来れば】
上からだな、と笑いたくなって。でも途端に、無性に会いたくなって。
「すみません、行先変更したいんですけど」
一も二もなく、俺は運転手さんにそうお願いした。
【Fin.】