キミが欲しい、とキスが言う


「ヤダぁー。あさぎくんとまだあそぶー」


全身を火照らせた百花が俺の腕の中で暴れている。

馬場たちはもう帰るところで、玄関先でのお見送り。
さっきまでご機嫌に遊んでいたはずの百花が、いきなり火のついたように泣き出したのだ。


「ももちゃん、泣いちゃダメぇ」


つられて千利まで泣き出すからたちが悪い。
暴れている状態の百花を抱えていれば、千利の方まで手が回らない。瑞菜に目で合図すると、「よしよーし。せんちゃん泣かないの」と抱き上げてくれた。途端に、百花が瑞菜に向かって手を伸ばす。


「あ、もももママがいい」


おい。ふざけんな、娘。


「ももちゃん、ママふたりは抱っこできないよ」

「ヤダぁ、ヤダぁ」

「ももちゃんがいうこと聞いてくれたら頑張るんだけど」

「いうことって何?」

「笑って浅黄くんにバイバイ言えたら、ママ、ももちゃんのことぎゅーってしてあげる」

「ふえっ」


百花は目に涙を溜めたまま、口を真一文字にしてこらえる。
そして浅黄くんの方を見て、にっこり……できずにボロ泣きする。


「うわあああん、やっぱりヤダぁ」


半分暴れているような百花を抑えながら、ああでも我が子カワイイなと思ってしまう俺は大分親バカなのだろう。
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