キミが欲しい、とキスが言う
それから、二週間後。
今日は珍しく厨房組は全員揃っている。まだ表の札は準備中で、俺と馬場で下ごしらえ中だ。
「ちょっと任せていいか」と店長はいい、事務仕事を終えて事務所を出てきた光流を手招きした。
「光流。実は相談があるんだ」
「なんですか」
「接客のバイト増やしたいんだけど」
「どうして。人員的には足りているでしょう」
盗み聞きしながら、俺も同意する。
接客は高間と光流とつぐみちゃんが正社員でいるし、パートやアルバイトも長く入ってくれている人ばかりで動きがいい。数で言ったら最小限かもしれないが、店はちゃんと回っているはずだ。
「それがさ。実は……」
「……はぁっ? おめでた?」
数家の声に、俺も馬場も思わず動きを止めた。
つぐみちゃん、妊娠したのか?
いや、結婚したんだからいいはずなんだけど、十七歳も下の女の子に手を出したって考えるとなんでか引くな。
でも、最近彼女が体調悪そうにしている理由が分かった。
「だからさ、あいつの補充が必要なんだよ」
「でも別にそんなに急ぐことないでしょう。産休って出産一ヶ月前とかからとるもんですよ。辞めたがってるわけじゃ無いんでしょう?」
「そうだけど、ちょっとつわりがあるみたいで俺的には無理させたくないんだよ。妊婦が立ち仕事ってどうなんだ」
「房野はプライド持って仕事してますよ。サポートならしますが、補充まではいいんじゃないですか」
数家の言葉はいちいちもっともだ。
大体、アルバイトを雇ったらきっちりシフトを入れてやらないといけない。困ったときだけ頼むような手前勝手な雇用ができるわけないだろう。