キミが欲しい、とキスが言う
「橙次さん、それならアテがある」
思い立ったように馬場が割って入る。
「お、幸紀。ホントか」
「要は困ったときだけ入ってもらえればいいんでしょ? とりあえず半年は大丈夫だと思う」
そんな都合いい奴いるのか?
と思ったら、馬場はさらりと言い放った。
「茜、仕事辞めることにしたので、しばらくは暇なはずです」
「茜?」
「橙次さん、人の嫁さん呼び捨てにするのいい加減やめてください」
「はぁ?」
橙次さんが本気で目を向いて驚く。
「先週籍を入れてきました。報告遅くなってすみません」
ぺろりと舌を出して言ってのけた馬場に、橙次さんは絶句し、数家は思わず吹き出す。
「じゃあ扶養家族追加ですね。馬場さん、書類一枚書いてもらえます? あと戸籍抄本を取ってきてもらって」
「ちょ、待った。え? いつの間にそんな話になったんだ?」
「知らないの、橙次さんだけですよ」
してやったりという顔で、馬場が笑う。
口をパクパクさせる橙次さんを見て、俺たちは思いっきり笑いあった。
その後立て続けに、瑞菜の妊娠と茜ちゃんの妊娠が発覚したことは、また別の話。
【Fin.】