キミが欲しい、とキスが言う
桜咲く、春。
昨日の入学式で満開の様子を見せた桜は、日中の強風のせいか、花弁を足元に落としている。なんだかもったいない気がして拾い集めていると、背中から僕を呼ぶ声がした。
「あーさーぎー!」
「幸太」
同じ高校の制服に身を包んだ幸太が駆けてくる。
ずっと幸太の方が背が高かったのに、中学三年の時点で僕の方が大きくなった。幸太みたいにちゃんと筋肉もついて大きいのなら格好がつくのに、僕はただひょろ長いだけでそれがちょっと嫌だ。血というのは侮れないもので、僕は年々実の父親に似てきている。
昨年、彼は一度僕に会いに来た。
「アメリカの大学に呼ばれてね。いい機会だし、帰ろうと思って」
寂しそうにそう言って、連絡先を差し出した。
「いつか会いに来てほしい」
恐ろしいほど悪気がないんだと、その時に思った。
“浅黄がお腹にいることを知らずに、帰国したから”
そういった母さんの言葉を、幼い時はそのまま理解した。
だから僕も、彼が悪いわけじゃなかったんだと思っていた。
過去形だ。
今は、ちょっと違う。
小学二年生の途中から僕の父親になった人は、ざっくばらんになんでも話してくれるタイプだ。
性教育という、日本人がなるべく話題にしないことも、ここまであけすけに言っちゃうのかと思うくらいに教えてくれた。同い年の男同士でなんとなく話す下ネタと違って面白がる様子がなかったからか、父さんの話はすっと耳に入ってきた。