キミが欲しい、とキスが言う


「なあ、部活何にする?」

「まだ決めてない」

「卒業式の日に告ってきた子と、どうなった?」

「よくわからないからまた会う約束はした」


次から次へと話題が尽きない幸太は、僕の曖昧な返答など気にしていないようで、ポンポンと話題を飛ばしていく。

そんな幸太に、僕はずっと救われてきた。

高校だって、幸太が頑張って僕と同じ高校を目指したように言われているけど、本当は違う。
僕は幸太と一緒の高校に入りたくて、わざと成績を落としていたんだ。

依存に近いこの関係を、少しは変えなきゃいけないことはなんとなくわかっていたので、卒業式の子との関係も進めてみることにしたのだ。

依存し過ぎると、きっと実の父のようになる。
のめりこんで、幸太の人生をダメにする。

そんな思いが、僕の中でいつも警鐘を鳴らし続けていた。







【宴】と書かれたのれんをめくり、「ただいま」と声をかけた。


「いらっしゃ……あら、浅黄。お帰り」


ふわりと笑う母さんは、歳をとっても綺麗だと思う。

エプロン姿じゃなく、ちゃんとした格好で外に出れば、今でも男の人が振り向くし、僕みたいな大きな子供がいると知るとみんな驚きの声を上げる。

思えば、幼い時の僕にとっては、この人が世界のすべてだった。こんなところにも依存体質の片鱗が見えて、自分でもビビってしまう。
< 238 / 241 >

この作品をシェア

pagetop