キミが欲しい、とキスが言う
「なあ、部活何にする?」
「まだ決めてない」
「卒業式の日に告ってきた子と、どうなった?」
「よくわからないからまた会う約束はした」
次から次へと話題が尽きない幸太は、僕の曖昧な返答など気にしていないようで、ポンポンと話題を飛ばしていく。
そんな幸太に、僕はずっと救われてきた。
高校だって、幸太が頑張って僕と同じ高校を目指したように言われているけど、本当は違う。
僕は幸太と一緒の高校に入りたくて、わざと成績を落としていたんだ。
依存に近いこの関係を、少しは変えなきゃいけないことはなんとなくわかっていたので、卒業式の子との関係も進めてみることにしたのだ。
依存し過ぎると、きっと実の父のようになる。
のめりこんで、幸太の人生をダメにする。
そんな思いが、僕の中でいつも警鐘を鳴らし続けていた。
*
【宴】と書かれたのれんをめくり、「ただいま」と声をかけた。
「いらっしゃ……あら、浅黄。お帰り」
ふわりと笑う母さんは、歳をとっても綺麗だと思う。
エプロン姿じゃなく、ちゃんとした格好で外に出れば、今でも男の人が振り向くし、僕みたいな大きな子供がいると知るとみんな驚きの声を上げる。
思えば、幼い時の僕にとっては、この人が世界のすべてだった。こんなところにも依存体質の片鱗が見えて、自分でもビビってしまう。