キミが欲しい、とキスが言う
カバンに入れておいた携帯が鳴り、見ると卒業式の彼女の名前が書いてある。
まるで他の女の子のことを考えていたのを見透かされたみたいで、僕はなんとなく居住まいが悪くなり、この子とは友達どまりなんだろうなと、漠然と思った。
駅に向かうと、萌と同じくらいの年齢の男の子がひとりで歩いているのが見えた。
もう暗いのに、と心配で辺りを見たら、「いたー万里」という叫び声とともに、同じくらいの背の高さの男女が駆けてくる。
良かった、家族、いたんだな、とホッとしたのと同時、「萌ちゃん、寝ちゃったぜ」と幸太が笑いながら言った。
「悪いな、重いだろ」
「いや、ちっこいもん。たいしたことない」
そのまま僕が視線を萌に向けたのと同時に、その男女は僕らのそばを横切った。
――運命の出会いは、まだ遠い。
【Fin.】