キミが欲しい、とキスが言う

汗と体液が混じる濃厚な夜の終わりには、体の方が先に悲鳴をあげていた。
ベッドに火照った体を投げ出した私と、上半身を起こして肩で息をする彼。

呼吸がようやく落ち着いてきたころ、ダニエルは途方に暮れたような声を出した。


「……でも僕はあなたを連れていけない」


ひどい男。
こんなに愛して、依存して、それでもいらないと言ってのけるの。

あなたは結局、私を水商売の女としか見てなかったの?
だから将来なんて考えてなかった。
後腐れなく切って捨てられると思ったら私を選んだの?

だったら、最後まで私はそう演じてやる。


「……そう。分かった」


泣きすがったりなどするものか。
別れ際に笑う演技をすることくらい、もうとっくに慣れっこになっている。

けだるい体に鞭打って、体を起こして服を纏った。
無言のまま、すがるような目を向ける彼から目をそらす。


「……さよなら。楽しかったわ、ダニエル」


終わりだ。
私と彼の恋は、ここで行き詰ってしまった。

その後、森田教授が彼の帰国の便を教えてくれたけれど、もちろん見送りになんて行かなかった。
男と別れるのに、こんなに痛みを伴うのは初めてだった。



……そして、二か月後。
遅れに遅れた生理に、私はようやく重い腰を上げて妊娠検査薬を試した。


「……陽性」


避妊はしたはずだったけど、あの日は何度もつながっていたから間違いがあってもおかしくない。
だけど、今から彼を見つけ出して責任を取らせるなんて無理だ。

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