キミが欲しい、とキスが言う
「な、……な、馬場くん?」
驚いて腕を引こうとするけど、彼はしっかり手首の辺りを掴んでいるので抜けない。それどころか、不満そうに眉間に皺を寄せて私を睨む。
まるでヤクザの人みたいで怖いわよ。
私が怯んだのを見て取ってか、彼の手が少し緩んだ。
「あなたに甘えるような男ばっかり選んでないで、少しはこっち向いたらどうですか」
それって、……どういう意味?
甘えるような男って誰? ってか、こっちってどっち。
訳も分からず、ただうろたえるばかりの私に、これまた【U TA GE】の従業員である数家くんがお水を持ってきてくれた。
「馬場さん、落ち着いてください」
「落ち着いてるよ。前から思ってたことを言っただけだ」
「……だそうですよ、茜さん」
数家くんを中継点にして、会話は続けられる。
でも、私は落ち着いてないわ。むしろ動転して、何を言われたんだか理解できない。
今のは告白?
なんで馬場くんがそんなこと言うの?
私と彼、今まで世間話しかしたことないよね。
……ああ、私酔ってるのかも。
そうだわ、今日はちょっと飲み過ぎたもの。
だから、きっと幻聴なんだ。
最近男日照りだから、馬場くんは何も言っていないのに、勝手に脳内で会話をしちゃったのかもしれない。