キミが欲しい、とキスが言う
「や、待ってください」
「父なし子を産もうなんて考えてるんじゃないわよね。やめときなさい。後悔するから」
「でも……」
思わず反論しそうになったけれど、ママの責めるような目に我に返る。
ママの言ってることは正しい。
私が子供みたいなのに、子供なんて産んでどうするのよ。
産んで、どうやって育てるの?
一人でなんてできるわけがない。
黙りこくった私を見て、ママはため息をついた。
「三日間休みをあげる。その間にどうするか決めてきなさい」
なんと返事したらいいかわからず黙っていたら、ママは「いいわね」と念押しした。
これ以上引き延ばすわけにはいかなくなった。
最初の一日は悩んでいるだけで時間が過ぎていき、私は二日目にようやく産婦人科に行った。
病院の中には、大きなお腹を幸せそうに撫でる母親や、すでに顔見知りなのか、きゃあきゃあと騒いでいる人もいた。年配の人も数人かいたけれど、こちらは妊婦というわけではないのだろう。
待っている間の、居心地の悪さと言ったらない。
帰りたいと何度か腰を上げかけたものの、ママの責めるような視線を思い出すとそれもできない。何より、目をそらし続けたって、お腹の赤ん坊がなかったことにはならないって、頭ではわかっていた。