キミが欲しい、とキスが言う
「浅黄か、可愛いわね」
浅黄を抱っこしながら、母が少し考えるように黙りこくり、しばらくして口を開いた。
「……父親の名前、はじめてちゃんと教えてくれたわね。名前の方はなんて言うの?」
「ダニエル=ブラウン」
「ダニエル」
母は唇に手を当て、そっと目を閉じた。
「素敵な名前ね。……すべては神の御心のままに、という意味の名前よ」
「神の……?」
母の言葉がストンと胸に落ちた。
と同時に、彼にすがる気持ちが遠のいていくのを感じた。
すべては神の御心のまま。
だとしたら、彼は私に必要な人じゃなかったということだったのだろうか。
でも、浅黄は生まれた。
それも神の思し召しだというなら、あの人は、私に浅黄をくれるために遣わされたのかもしれない。
別にキリスト教徒というわけでもなかったけれど、不思議にそれが信じられた。
浅黄は、神様が私にくれた子供なんだと。