キミが欲しい、とキスが言う
3.瞳は不安を映し出す
 体が揺れる振動に、意識が急速に浮上する。
なんでこんなに揺れてるの? 地震?


「……さん、お母さん」


 浅黄の声がする。私を呼んでる。起きなくちゃ。……ん? 起きる?


「朝!」


飛び起きた瞬間に、眼から星の出るような衝撃が私を襲う。額を抑えると、目の前の浅黄も顔をしかめてうめいている。
どうやら、私を覗き込んでいた浅黄と額同士でぶつかったようだ。


「ごめん、浅黄。大丈夫?」


両手でほほを抑えて、浅黄の顔を持ち上げると、かすかに赤くなっているおでこが見える。
涙目になっているのがかわいそうだ。


「お母さんこそ」


浅黄の手が私の額を撫でる。おそるおそる触られると、くすぐったくて笑ってしまう。


「私は平気よ。それより早起きね」


言った途端に目覚ましが鳴る。時刻は六時三十分だ。すぐに消して立ち上がろうとすると、浅黄は私のパジャマの裾を引っ張り、プリントを一枚差し出した。


「これ、ひとこと書いてほしい」

「なに?」

「自主学習チェックシート」

「ちゃんとやってるの」


浅黄はこくんと頷いて、ノートを差し出した。
私は、自主学習ノートをパラパラめくって、毎日何かしら書いてあるのを確認してから、【自分で計画をたててがんばっています】と記入する。


「はい。これでいいかな」

「ありがと」

「じゃあ、ご飯作ろ。浅黄、準備できたらお手伝いして」


パジャマのまま台所に立つ私と、着替えを始める浅黄。それぞれに動き出すのもいつものことだ。
ご飯は炊けているようだから、お味噌汁の具材を切っている間に、目玉焼きを焼く。

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