キミが欲しい、とキスが言う


 それから、二週間ほどが過ぎた。
その間も【U TA GE】からは時々お店の残り物が届けられたけれど、私はメールでのお礼に留めて、店に行くのは避けていた。

 そんなある日、珍しい人が店に顔を出す。
絡み酒になっていたお客様を見送って、ようやくカウンターに戻った時だ。


「アカネ、ちょっと」


ママに呼ばれて奥に入ると、所在無げにたたずむさわやかな顔の青年がいた。【U TA GE】の若き従業員、光流くんだ。


「光流くん、どうしたの?」

「残り物持ってきたんですけど。……いろいろありまして、もしよかったらお時間いただけないかと」

「え、でも」


仕事中だし、とママを見るとふわりと笑われる。


「いいよ。今あんたのお客帰ったばかりだし。ご指名入ったら呼ぶから裏方仕事してなさい」

「……ありがとう、ママ」


うちのママは理解があるから助かるけれど、仕事中に邪魔されるのは困る。
軽くにらみつけると、光流くんは降参とでもいうように両手を上げた。


「怒る気持ちはわかります。お仕事中邪魔して申し訳ないです」

「分かっているなら何? 話があるなら仕事終わりまで待てないの?」

「正攻法だと逃げられるのかなぁと思って」


逃げるってなんで?
意味が分からず小首をかしげると、光流くんも不思議そうな顔をする。


「……怒っているわけではないんですか?」

「え?」


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