キミが欲しい、とキスが言う

「最近、茜さんが来ないでしょう。様子見てこいって言われたんです。確実に捕まえろって」

「誰に」

「誰だと思います?」


人の反応を試すように問い返してきた。
私はため息をついて、あたりさわりなさそうな人物名を出す。


「……橙次?」

「店長まだ茜さんにちょっかい出してます?」

「出してない。最近じゃ、具材届けに来るのも橙次じゃないことの方が多いわ」

「ですよね。だから店長じゃありません」


光流くんは緩い微笑みを浮かべたまま、私の出方を待っている。

嫌だわ、この子。あくまでも私の方から名前を出させようとしてるのね?


「光流くん、思ったより性格悪いわね。……頼んだのは馬場くんね?」

「そうです。良かった、多少の意識はされてるようですね。あ、何があったかまでは聞いてませんよ。ただ、俺のせいで来ないのかもしれないからって伝言を預かってきました」

「伝言?」

「ええ。【逃げると追いかけますよ】って」


予想と違う伝言内容に、目が点になる。
強引にキスしたことを謝るとかならわかるけど、そのストーカー発言はいったい何なんだ。

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