キミが欲しい、とキスが言う
*
昼頃まで寝直して、起きあがると辺りは静かなものだった。
なんとなく隣が気になって耳を澄ましてみるけど、物音ひとつしない。出かけているのかしら。
「やめよ。気にしてるのバカみたい」
独り言で気持ちを切り替え、いつものようにパソコンでモニター仕事をチェックして、自分にできそうなものをいくつか登録したり、家事を済ませたりしてから家を出る。
どうせ逃げたって隣にいるんだと思えば、【U TA GE】に行くのを我慢していた自分がばからしい。今日は迷わず目的地をそこへ定めた。
店の外までほのかに香るお出汁のにおい。
ここに通うようになったのは、【アイボリー】に勤め始めてからだ。
それ以前はイタリア料理やこってりしたものばかり好きだったのに、子供を産んでから味覚が変わったのか、今はあっさりしたものばかり食べたくなる。
「いらっしゃいませ」
扉を開けるとすぐに迎えてくれたのは、光流くん。
今日は彼のホームグラウンドだからか、落ち着いた所作で私を迎え入れる。
「ようやく来てくれましたね」と耳打ちされたので睨み返した。
「衝撃的なことがあったんだけど」
「ああ……もしかして家の近くで馬場さんに会ったとか?」
「……まあね」
近くというか、隣だったわよ。
仏頂面をしている私に、光流くんは苦笑してみせる。
昼頃まで寝直して、起きあがると辺りは静かなものだった。
なんとなく隣が気になって耳を澄ましてみるけど、物音ひとつしない。出かけているのかしら。
「やめよ。気にしてるのバカみたい」
独り言で気持ちを切り替え、いつものようにパソコンでモニター仕事をチェックして、自分にできそうなものをいくつか登録したり、家事を済ませたりしてから家を出る。
どうせ逃げたって隣にいるんだと思えば、【U TA GE】に行くのを我慢していた自分がばからしい。今日は迷わず目的地をそこへ定めた。
店の外までほのかに香るお出汁のにおい。
ここに通うようになったのは、【アイボリー】に勤め始めてからだ。
それ以前はイタリア料理やこってりしたものばかり好きだったのに、子供を産んでから味覚が変わったのか、今はあっさりしたものばかり食べたくなる。
「いらっしゃいませ」
扉を開けるとすぐに迎えてくれたのは、光流くん。
今日は彼のホームグラウンドだからか、落ち着いた所作で私を迎え入れる。
「ようやく来てくれましたね」と耳打ちされたので睨み返した。
「衝撃的なことがあったんだけど」
「ああ……もしかして家の近くで馬場さんに会ったとか?」
「……まあね」
近くというか、隣だったわよ。
仏頂面をしている私に、光流くんは苦笑してみせる。