キミが欲しい、とキスが言う
「……どうしたの?」
そこに、ランドセルを抱えた浅黄がやってきて、首をかしげる。私と幸太くんの顔を不思議そうに見ながら廊下まで出てきて、やっぱりぎょっとしたような顔をした。
「やあ、おはよう」
にっこり微笑む馬場くん。でも、残念ながら威圧にしかなっていないようだ。
浅黄は完全に私に隠れるようにしておずおずと彼を見上げている。
「だから。子供たちを怖がらせないでちょうだい。浅黄、幸太くん、この人は馬場さんっていう料理人よ。ほら、前に【U TA GE】って店に行ったの覚えてない?」
「あ、知ってる。芋煮会の時だ!」
「……橙次おじさんのところ?」
「そう。そこのお店の人だから怖くないの。隣に引っ越してきたんだって、ご挨拶して?」
そう言ったら、なぜか馬場くんの方がかしこまって頭を下げた。
「馬場幸紀です。浅黄くんと……幸太くんだっけ? これからよろしく」
頭を下げても、浅黄たちはまだ見上げる姿勢だ。
それに気づいたのか、彼はしゃがみこんで浅黄に目線を合わせる。
「これで怖くない?」
私からも見下げるような状態になり、困ったような表情がよく見えて、一瞬ドキッとしてしまう。
見た目がいかついだけに、ギャップでかわいく見えてくるから不思議だ。
浅黄と幸太くんもそう思ったのか、顔を見合わせて「うん」と頷く。