キミが欲しい、とキスが言う
「おじさん、大っきいね。どうやったら大きくなれるの?」
すぐに慣れてしまうのはやっぱり幸太くんだ。興味津々で馬場くんの肩をポンポンたたく。
「普通に飯食ってりゃでかくなるよ」
「普通ってどのくらい?」
「んー。小学生の時だったら、ご飯茶碗に山盛りくらい」
「それ多くない?」
幸太くんが警戒を解いたことで、浅黄も顔を緩ませはじめた。ポンポンと会話するふたりを眺めながら、ぼそりとつぶやく。
「……僕の時みたい」
「ん? なに?」
浅黄のつぶやきに耳を傾けると、浅黄は内緒話をするように私の耳元に口を当てる。
「幸太、昔、僕に『髪光っててすげー。金色の髪ってどうすればなれるの?』って言ったんだ」
「そうなんだ」
「そう。それで僕、すごく困って。『わかんない』って言ったら、幸太、『一緒にいたらうつるかな』って」
子供の発想って面白い。
つられて笑いながら、ふと時間を見るともう五分以上話している。
「ふたりとも、早くいかないと遅刻するわよ」
「あ、やば」
「行こう、幸太。行ってきます」
ふたりは軽快な音を鳴らして階段を下りて行った。すぐに下の道路に小走りに進む姿が見える。
「気を付けて行けよ」と欄干から手を振るのは馬場くん。
私はその隣に立って、彼を睨みつけてやった。