キミが欲しい、とキスが言う


「あー、笑い過ぎたわ」


ようやく笑いが収まってきて、目尻の涙を拭きながら顔を上げる。

すると、今度は私の前に馬場くんの小指が差し出された。彼のより目は戻っていて、代わりに口元に笑みが浮かんでいた。


「なに、この手」

「浅黄の嫌がることはしないって約束するので」

「……指きり?」

「そう」


なんでそんな子供みたいなことをしなきゃならないのと思いつつ、つられるように指を絡ませた。


「約束破ったら何しましょうか」

「もう破ること考えてるんじゃないの」

「いや、破りませんけど。じゃあ、その時は茜さんのいうこと何でも聞きます」


何でもって言われてもな、と思っているうちに、彼は勝手に指切りを済ませてしまう。


結構マイペースよね、この人。
黙っていることが多いから今まで気づかなかったけど、人に左右されなさそう。
気が付いたら馬場くんのペースになっているもの。

悶々と考えていると、彼は大きく伸びをして、「じゃあ俺、仕事の準備あるんで」と部屋に入っていく。


「ああ、そう」


返事をした時にはすでに隣のドアは閉まっている。
またも取り残されるのは私。

おかしいな。
追いかけられてるのが私の方なのに、置いてきぼりにされた気分になるなんて、おかしいじゃない?


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