キミが欲しい、とキスが言う



 三十分も走ったあたりで、駐車場に入れられる。


「まずは飯ですかね」


 降りてすぐのところにあったカフェで、おススメランチプレートを食べ、科学館に併設されているプラネタリウムに入る。
 星の説明だけがされるのだと思ったら、ストーリーのある短編アニメ仕立てになっていて、結構楽しめた。
でも、プラネタリウムの椅子は傾きがちょうどいいので、うとうとと眠くなってきてしまう。

 睡魔に襲われた私の頭の中では、夏の大三角形の説明がリフレインされている。白鳥座のデネブ、こと座のベガ、わし座のアル…なんだっけ、どうしてもわし座の一等星が思い出せない。なんか、こう固そうな名前なんだけど。タイ……そうだ。


「アルタイル!」


パッと目を開けたら、すごく近くで私を覗き込んでいる馬場くんの顔が見えた。


「えっ」

「今起こそうと思ってたとこです。ナイスタイミング」

「私寝てたの? ごめん」


慌てて顔を抑える。嫌だわ、変な顔してなかったでしょうね。
見ると周りは薄明るくなっている。


「出ましょう。次の回がはじまる」


彼の手を借りて立ち上がる。薄暗い照明の中、馬場くんは迷わず出口の方向へむかったので、私も追いかけた。
なんか不思議な気分だ。行動の主導権を握られるなんてこと、めったにないのに。

大きな馬場くんは歩幅も広い。高いヒールを履いている私では足が絡まって追いつけなくなる。


「待ってよ、馬場くん」

「あ、すいません。早いですか」

途端に足を止められて、今度は体ごとぶつかってしまった。彼の筋肉のついた腕にしたたかに鼻をぶつけてしまって、涙目になってしまう。

「痛ったい」

「あ、ごめん。……加減がわからないな」
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