キミが欲しい、とキスが言う
「馬場くんみたいな子は、やっぱり普通の女の子と付き合った方がいいよ」
私の言葉に、馬場くんは視線をこちらに向けた。表情からは柔らかさが消え、口元がまっすぐに結ばれている。
「ちゃんと恋愛したいんでしょ?」
「……したいですよ。でも、その相手はあなたがいいんです」
「私相手じゃ無理よ。まっとうな恋愛なんてできないわ。大体、馬場くんは私のどこが好きなの? そんなに話したことないでしょう? やっぱ顔?」
からかうように言ったのに、馬場くんは真顔のままだ。
「あなたは案外自己評価が低いですよね。顔じゃありませんよ。敢えて言うなら声ですかね」
「声?」
「以前は開店前によく来たでしょう。厨房で聞いているとね、あなたの声が一番響くんです」
橙次や光流くんと話す私の声。何を話していたっけ。思い出そうとしても思い出せないくだらないことばかりだ。
厨房に響くほど大きな声だったとは思っていなかった。
「いつも元気のいい声出すでしょう。最初は単に高い声だなと思っていただけだったんですけど、毎日のように聞いていると、声に表情があるのが分かってくるんですよ。それで、次は顔を見たくなった。でも顔はいつも同じなんです。笑ってばかり。だから顔を見て話しているとごまかされる。声の方が正直なのかと気づいた時には、もう頭の中はあなたでいっぱいになっていた。これが好きっていうもんかと思うんですけど、どう思います?」
そんなの問い返されたって困るわよ。
声が好きだなんて、ポイントが不思議過ぎて喜んでいいのかどうかも分からない。
見た目でもなくて性格でもなくて……ってことでしょ?