キミが欲しい、とキスが言う
「声だって、顔好きになるのとおんなじでしょ。私の事、何にも分かってないじゃない。頭の中で理想化しているだけよ」
「……疑り深いですよね」
「そんなことないわよ」
「あります。そもそも、男全般信用してないでしょ。言葉の端々に出てますよ」
「そんなことないわ」
「出てますよ。だから橙次さんにセフレでいいとか言っちゃうんでしょう」
「そこ蒸し返す?」
「だって腹立つでしょう。俺の好きな人が、自分を大事にしないなんて」
どきんと心臓が大きく鳴る。
なんか本当に、言ってることが清純だなぁ。まっとうに生きてきた人なんだなって感じがするわ。
「……純粋なのねぇ、馬場くん」
「バカにしてます?」
「してない」
「嘘だ。してる」
押し問答を続けていることが可笑しくなってくる。
笑いだした私を、彼は困ったように見つめる。
「……バカにはしていないわ。羨ましいだけ」
「なんで」
「だって私、もうそんなに綺麗になれないもん」
どこが間違いだったのかは分からない。ただ、楽に流されて生きてきたつもりだったのに、いつの間にか戻れないところまで来ていた。三十過ぎのシングルマザーは、夢ばかり見てはいられない。
「もっと前に会えたら、付き合えたかもしれないけど。……ごめんね、馬場くん」
ずるずる引き延ばすのは、きっと彼のためにならないだろう。
今日を最後に、デートも終わりにしよう。