キミが欲しい、とキスが言う
「……なんですぐ結果出そうとしてるんです?」
「だって。告白されたら返事しなきゃでしょ」
「まだいいですよ。あなたは俺があなたを知らないっていうけど、そっちだって俺のことまだ分からないでしょう。お試し期間と言うやつです」
お試しするかしないかを決める権利は私にもあると思うんだけど、そこは考えてくれないのね。
やっぱり、馬場くんってマイペースだ。
「それに、俺は茜さんのいいとこばかり見てるつもりはないですよ。話してみりゃ、結構頑固だし、疑り深いし、男にユルい割には信用はしないし、気が強いかと思いきゃ情緒不安定だったりもするし」
グサグサ突き刺さるな。
そこまでわかってるなら、幻滅して嫌いになってちょうだいよ。
「……そんでも、好きですけどね」
さらりと言ってのけられて、ぎょっとしてしまった。緩やかに早まる鼓動。
このマイペース野郎め、欠点上げ連ねてから告白するとか心臓に悪いからやめてちょうだいよ。
「馬場くんって、変。悪いこと言わないから私なんてやめておきなさいよ。苦労しかしないわよ。子持ちで、ちゃらんぽらんで……いいところなんて」
私自身が、自分の良さが分からない。顔と体、それ以外に称賛されるものなんてなかった。そしてそれはすべて、年齢とともに衰えていくものだ。
「自己否定も聞きたくないです。あなたに分からなくても、俺には価値がちゃんとある」
馬場くんは私の言葉を遮ると、立ち上がった。
「ちょっと歩きましょう?」
「え?」
「もっとあなたの声が躍るところに。今の声、あんまり好きじゃないです」
大きな歩幅で先に行ってしまう彼を、見えない力で引っ張られているかのように追いかけた。
同じ入場券で入れる科学館の二階に、なぜだか噴水があるコーナーがあった。