キミが欲しい、とキスが言う
「……綺麗。でもなんで室内に噴水?」
「逆サイホン原理を利用してるそうです。水源は下の階ですね。ここに色々説明は書いてあるけど、難しいことは知らなくてもいいでしょう? 大事なのは見て楽しいかどうかですし」
「そうね」
水しぶきが、一面の窓からの光を浴びて輝いている。
そのほかにも、雲を発生させる装置や、金属の炎色反応のコーナーに連れていかれる。
中学だったか高校だったかで、原理はやったと思うのだけれどどうにも理解はできない。でも、単純に綺麗だと思って目を見張ってしまう。
先にこういうの見ておけば、授業は楽しかったのかもしれない。教科書の中だけでは美しさも半減だもの。
“感じること”が先にあれば、その先を追い求めたくなるのは人間の本質なのかもね。
――『気が付いたらもう頭の中はあなたでいっぱいになっていた』
馬場くんの告白が、今頃理解できたかもしれない。
彼は私の声に何かを“感じて”、変わったものが恋だと思っているんだ。
それが、間違いだとは私には言えない。
今実感として感じてしまったから。
「どうでしたか」
科学館を出てから、馬場くんが問いかけてくる。
「科学館は、結構面白かった。でもプラネタリウムは寝ちゃったわ」
「俺もそっちは星じゃないところばかり見てました」
「なんだ」
「じゃあまあ、お互いプラネタリウムはダメで科学館はおっけーってことですね」
そんな風に結論付けて、車の前まで行った彼は助手席のドアを開けて私に言う。
「そろそろ時間ですし送りますよ。次回は茜さんの好きなところに行きましょ?」