キミが欲しい、とキスが言う

「幸太くんち?」

「うん。五時までに帰るから」

バタバタと出て行って、私はまた一人。再び静かになってしまった部屋に、ため息が零れ落ちる。
暇だから、やっぱり外食はやめて買い物行ってご飯を作ろうか。でもやる気も抜けてきちゃったなぁ。

普段構わないくせに、自分が構いたい時だけ寂しく思うなんてどうしようもないとは思うけど、ため息がこぼれてしまう。

男だけじゃなくて、子供も思い通りには動かないなぁ。


畳の部屋にごろりと横になって、両親も私に対してそう思っていたんだろうな、と思う。
覚悟もないくせにやることなすこと反発ばかりしていたものね。


 浅黄が生まれたばかりの頃、両親……特に父親の方は、仕方なしに私を許容してくれていた。
浅黄のことはかわいがってくれていたけれど、私のことは目の上のたんこぶのように思っていたのだろう。

実家にお客が訪れるたびに、「我がままに育ててしまった」とけなされる日々。気づまりで溜まらなくて、助かる反面、家を出たくてたまらなかった。

出るきっかけになったのは、就職活動がうまくいかず、やっぱりホステス業に戻りたい、と言ってからだ。
父は猛反対し、母も渋い顔をした。

だけど、私はおとなしく事務仕事のできるようなタイプではないし、同じ接客業なら金銭的にいいホステス業がやりたかった。結局、物別れに終わって家を出ることになったのだけれど、それまで内孫として可愛がっていた浅黄のことは心配なのか、この子のことだけは協力してくれると言ってくれた。

 苦労はあっても自分で築く生活にはそれなりの充足感もあり、それなりにうまくやっていたと思う。実際、数年前まで私は自分の選択に疑問など感じてなかったのだ。


 でも私が変わらなくても、周りの時間は流れていく。

浅黄が何もかもを話してはくれなくなったし、付き合った男はみんな、将来を歩める人を見つけて去っていく。お客さんにさえ、若いころのようなちやほやされるような態度はとられなくなった。それがすべて時の流れのせいなら、時間なんて止まってしまえばいいのに。

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