キミが欲しい、とキスが言う
玄関ベルが鳴って、私の思考は中断させられた。
時計を見れば十六時半。誰だろう、浅黄が帰ってくるには少し早いけれど。
ドアスコープから覗くと、見えるのは馬場くんの姿だ。
「馬場くん? あれ、浅黄に幸太くんも」
扉を開けてみると、彼の腰回りに浅黄と幸太くんがひっついている。そして馬場くん自身は、たくさんのアジが入った袋を掲げて私に見せた。
「魚屋で安かったから買ってきたんだけど。刺身にしようかなと思って」
「うん」
「多いから、一緒に食いません?」
「……さばくの?」
「当たり前。俺の職業忘れてないですか?」
それはありがたいお誘いだけど、なんで子供二人を従えているのだろう。
「こいつらは、近くの公園で遊んでいるところを見かけて、今から魚さばくって言ったらついてきた」
「見たい見たい!」
「……って、幸太が言うから」
キラキラした瞳で馬場くんを見上げる幸太くんを見て、浅黄が説明をしてくれる。
なるほど、それでこのメンツでうちに来たのね?
「幸太の家にも持たせてやりたいんだけど、茜さんちでさばいてもいい?」
そう聞かれたら、NOとは言えないだろう。
「どうぞ」
扉を大きく開いて招き入れると、「浅黄んち、久しぶりー」と幸太くんが無邪気に笑いながら入ってくる。一呼吸おいて、馬場くんが私に魚の入った袋を差し出した。