キミが欲しい、とキスが言う
「茜さん、俺このまま飯作っちゃっていい?」
「え? そりゃ助かるけど」
「じゃ、台所借りる。浅黄、手伝えよ」
「え? は、はい」
私が幸太くんを送っているあいだに、浅黄と馬場くんが夕飯を作ってくれる……ということらしい。
浅黄はなんとなく腰が引けている様子で私を見上げてくるけど、留守宅に馬場くん一人おいていくのもなんだか気まずいので、任せようかしら。
「浅黄、いい?」
「う、うん。あ、お母さん、幸太の家からゲーム持って帰ってきて。置いてきちゃった」
「分かったわ。すぐ帰るからね」
「うん。幸太またね」
「おう、明日なー」
お土産のアジのお刺身をもって、徒歩五分とかからない幸太くんの家まで行く。
「幸太くんは馬場くんと仲良くなったのね」
「うん! 馬場ちゃん、面白いよ」
「そうかしら」
「俺の話ちゃんと聞いてくれるし。浅黄のことも好きだって」
「え?」
幸太くんは自分自身がボールであるかのように、体を揺らしながら楽しそうだ。
「俺、浅黄の金の髪、好きなんだって言ったら、馬場ちゃんも『綺麗だよな』って言ったもん!」
「……そう。ありがとうね。幸太くん」