キミが欲しい、とキスが言う

「私も手伝うわ。なにしようか」


この場の主導権はすでに馬場くんが握っていたので、私は彼の指示に従った。

はじめて一緒に食べる夕食は、白いご飯とお刺身と、アジのムニエルとお魚のアラで出汁を取った豆腐のお味噌汁。私が作る料理は肉料理が多いので、浅黄は珍しがってたくさん食べた。


「それにしてもずいぶん買ってきたのね」

「安くするって言われて調子に乗りました」

「お魚、おいしい」

「新鮮だとなんでもうまいんだよ。もしよければ、また一緒に作ろうか」

「本当?」

「浅黄が嫌じゃなければな」


浅黄は一度、許可を求めるように私を見る。「好きになさい」と言ったらおずおずと彼を見上げた。


「僕、……またやりたい」

「いいよ。次に茜さんが休みの日にな」


馬場くんが見せる、優しい笑顔。
案外と強引でマイペースな彼は、いつの間にか私たちの日常に溶け込んでいく。

でもこれも悪くない。
馬場くんの本気がどの程度のものなのかいまいちよくわからないけど、おいしいご飯とくつろぐ時間と浅黄の笑顔が得られるなら、流されるのも悪くはないわ。

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