キミが欲しい、とキスが言う
「最近、昼番多めに入れてるから。夜、部屋にいることの方が多いんですよ。浅黄の様子も見れるし。何かかあったらすぐ知らせられるように」
「……」
思わず息が止まった。
ひょうひょうとしたままの彼をまじまじと見つめてしまう。
「……なんですか?」
「別に。そんなに浅黄の事心配してくれてると思わなくて」
思ったままを言ったら、彼は壁に手をついて苦笑した。
「……茜さんってホント鈍感ですね」
「あなた時々失礼よ」
「言ったでしょう、俺。あなたと結婚をしたいんだって。そうしたら茜さんが言ったんだ。結婚するってことは、父親になることだって。……分からないなりに考えてるんです。父親になるってどういうことなのか」
ただ八つ当たり気味にぶつけた言葉を、この人は真剣に咀嚼して自分の中に消化しようとしているのか。
驚いて見つめていると、彼はそのまま続ける。
「とりあえず父親になるには、子供のことを知らなきゃならない。だから引っ越してきたんです。近くにいなきゃ顔を合わせられない」
いやいや、当然のように言うけど、その行動はストーカーっぽいわよ。
「で、なんとなく気配をうかがっていたら、浅黄、結構長い時間ひとりでいるから」
「何でわかるの?」
「ここ、壁薄いから物音でわかるんですよ。帰ってくるのが八時くらいで、そこからずっとテレビの音をさせてる。話し声はしなかったから、一人で帰ってきてるんだと思う」
最近は母が送ってきてくれているわけじゃないのか。
夜八時なら辺りは暗いのに、怖いとは思わないのかしら。