キミが欲しい、とキスが言う
「そう。……てっきり母が送ってきてくれてると思ってた。浅黄、何も言わないから」
「週に一度くらいは誰かと一緒の日もあるみたいですよ」
たまに送らない日もある、というよりは、たまに送る日があるという程度なんだな。
最初の約束と違うけれど、自分からあの家を出たいと言った私には、文句をつける権利はない。
「それにしても、馬場くん、ストーカーみたいよ」
「ひどいな。まあ、……言われても仕方ないところはあるかなとは思いますけど」
クスリと笑って、敢えて私から一歩距離を置く。
「まあそんなわけで、色々考えた結果一番自分にできそうなのが、茜さんがいない間浅黄を守ってやるってことです。夜子供を一人にしておくのはちょっと心配だし」
「……だから、昼番にしてたの?」
「毎日じゃないですよ。ただ今までより多めに入れてもらってるだけです。何かあったら、すぐ駆けつけられるかなと思って。まあその前に、浅黄が俺に警戒しないようにならないとダメなので、朝から顔を見せたりしていたわけですけど」
頭に浮かんだのは、テレビをつけたまま眠る浅黄の姿。
音を必要としているのは、静かな空間が怖いからだろう。
仕事のためだし仕方ないと思っていた。浅黄の気持ちは敢えて考えないようにしていたのは、気にしていたら自分が動けないからだ。
けれど、馬場くんがそんな風に隣の部屋で気にかけてくれるのなら、どれだけ安心できるだろう。
「……ありがとう。じゃあ何かあったら馬場くんのところに行きなさいって言ってもいい?」
「もちろん。だからケー番をね?」
「ええ、分かったわ」
番号交換をしながら、彼を仰ぎ見る。ベリーショートのつんつんした髪。細い目が、私のスマホから番号を読み取って自分のものに写していく。