キミが欲しい、とキスが言う
「俺のはこれですからね」
言った途端に私の方のスマホが鳴る。番号を通知させるために馬場くんが鳴らしたらしい。そのまま名前の登録までしてくれている。
やっぱり、馬場くんのペースになっちゃってる。
でも、それが嫌じゃなかった。
いつの間にかペースにはめられる感覚が、だんだん楽しくなってきている。
「……なんですか? なんかついてる?」
ついじっと見てしまったからか、馬場くんが自分の顎のあたりを撫でる。
「違うわ。何でもないわよ」
見とれていたとは言いづらいので、ごまかした。そして訪れる少しの沈黙。
浅黄や幸太くんがいたらこんな風にはならないのに、と思った途端にひそかに気になっていたことを思い出したので聞いてみた。
「それより、あなた、どうして敬語使うわけ?」
馬場くんは意外とでもいうように眉をひそめた。
「……いつも、そんなもんでしょう」
「浅黄や幸太くんがいるときは使ってないわ」
「それはあいつらに合わせてるからで」
「私とふたりの時だって、別にいらないわよ、敬語なんて……」
言ってる途中で勢いがしぼんでいく。
私、何ムキになってるのかしら。まるで敬語使われるのが嫌みたいな……。
言ってしまったことが恥ずかしくなって膨れてそっぽを向いたら、小さく笑う声が頭上から聞こえる。
見上げると馬場くんが笑いをかみ殺していたので、睨んでやった。
「もしかして、拗ねてます?」
「そんなんじゃないわ」
「いや、そうでしょ……やべ」
何がよ、と思って顔を上げたら、優しそうに笑う馬場くんの顔がそこにあった。
「可愛いっすね。……ちょ、マジでヤバい」
「な、なに言ってるの」
というか、可愛いなんて言葉に動揺する私の方がどうよ。今更男からの褒め言葉にときめくなんてそんなのありえないでしょ。