キミが欲しい、とキスが言う


「家族がダメなら、家族プラス従僕の旅でもいい」

「従僕って、なにそれ」

「とにかくどこか行きたいってこと。浅黄と話して決めてもいい? 夏休みは子供優先でしょ」

「まあ、そうなんだけど」


でも三人で出かけるとなると、浅黄はどう思うかしら。
今は馬場くんのことを、【U TA GE】の従業員で私の男友達とでも思っているだろうけど、旅行にまで行くとなれば話は違う。

父親候補、という目で見たときに、浅黄は彼のことをどう受け止めるんだろう。


ふ、と視界に影が差し、馬場くんの顔が近づいてくる。廊下の欄干と彼の体に挟まれた状態になって、触られているわけでもないのに体が固まる。


「それとも、ふたりきりがいい?」

「はぁっ?」


素っ頓狂な声が出た。馬場くんはくすくす笑いながら体を離す。


「嘘だよ。浅黄を置いていけるわけないもんな。喜びそうなところに連れてってやろうよ」

「あ、当たり前でしょ!」


返事を聞いたのか聞かないのか、分からないくらいの素早さで彼は部屋に入ってしまう。
なんか、敬語使うのやめた途端に、意地悪になった気がするのはなぜ?

顔が熱いのは、夏の暑さのせいだけじゃない。
こんなふうにドキドキするのは、若いころでさえもなかった気がして、自分をどう扱ったらいいのか分からない。
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