キミが欲しい、とキスが言う
「でさ、聞かせてよ、恋バナ。付き合ってるの?」
興味津々で覗き込まれて、気恥ずかしさから思わず目をそらしてしまった。
「付き合ってはいないわ」
「じゃあただのお隣さん?」
敢えて関係を言葉にするならそうなのかしら。
でもただのお隣さんとは、一緒に出掛ける約束はしないか。
「そういうわけでもない……かな。一応告られて、でもお試し期間って感じ」
そう言ったら、幸太ママは目を丸くして私を見た。何か変な事言ったかなとちょっと焦ってしまう。
「お試し? なんで? 付き合わないの?」
「……なんか今までと違うから調子くるっちゃって」
ただ自分を慰めるだけのあと腐れのない付き合いなら、簡単にできた。
ホステス業に復帰してからは特に、割り切った関係を申し出てくる人も多かったし、それこそ一晩だけの相手を自分から求めたことだってある。
橙次のように長く付き合える男もいたけれど、それだって最初から“結婚”なんて考えない割り切ったものだった。
だけど今回は尻込みしてしまう。
「結婚まで考えてくれてないの?」
「逆。結婚とかまで考えてくれてるから、逆に迂闊に付き合えないなって思うだけ」
「……分かんないな。結婚とか考えてくれるならいいじゃない。むしろ考えてくれない方が私だったら付き合えないけど」
言われてみれば、確かに私はシングルマザーなのだから、普通の感覚ならそうなんだろう。
夜の世界に慣れ過ぎて、私も少し感覚がおかしくなっているのかもしれない。