キミが欲しい、とキスが言う

「なんていうか。……本気なら、私みたいなのと付き合うんじゃ可哀想じゃない」

「どうして? 馬場ちゃんは浅黄ママが好きだって言ってるんでしょ?」

「そうなんだけど。……付き合ったら幻滅されるに決まってるでしょ。そしたら傷つくのはこっちじゃないの」

「……なんで幻滅されるって断定できるのは置いておいて、その言いぶりだとすでに浅黄ママは馬場ちゃんが好きなように聞こえる」

「はぁっ」


思わず飛び出す素っ頓狂な声。

なんでそうなるわけ? 
そりゃ、嫌いじゃないわよ。でも……


「だって、嫌われるのが嫌だから付き合いたくないんでしょ? そういうことだよね?」

「……っ」


言われてみれば、確かに。


「今まで、結婚を考えないくらいの適当な付き合いならできたんでしょ? じゃあ付き合えないって思うのは逆に本気で好きだからなんじゃないの?」


ちょっと待ってその発想の転換何。

体中が熱くなって、グラスの水を一気に飲み干した。
グラスを置くと、幸太ママがにやにや笑ってみている。


「浅黄ママって、案外かわいいとこあるのね」

「……幸太ママ」

「ってか、その呼び方やめない? 呼びづらいじゃん。私の名前、美咲(みさき)っていうんだけど。浅黄ママは?」

「茜」

「じゃあ、これから茜ちゃんって呼んでいい? 私のことは美咲ちゃん、ね? いいかな、茜ちゃん」

「……うん。ありがとう、美咲……ちゃん」


なんだか、くすぐったい。
“浅黄のママ”じゃなくて“茜”。そう呼んでくれるママ友達なんて初めてだ。
名前で呼んでもらっただけで、繋がりが近くなったような気がする。

浅黄が、幸太くんを信頼するの、なんだかわかる気がしてきた。
美咲ちゃんも幸太くんも、とても暖かい。普通の幸せを、上手に育てることができる人たちだからだ。

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