キミが欲しい、とキスが言う
この恋を、捕まえることはできる。
ただ、持続させる自信が私にはない。
いつだって、恋は掌をすり抜けてきた。
ダニエルだって橙次だって他の人だって。
私を好きだと言いながら、最後は結局別れを選ぶ。
“それでも、好きですけどね”
欄干によりかかり、緩い微笑みを浮かべて私を見つめる彼が脳裏に浮かんでくる。
あなたはいつまでそんなことが言える?
手に入れる前から、私は失うのを怖がっている。
そんな人間と、恋愛なんてできると思う?
「私が聞いている限り、馬場ちゃんって浅黄くんのこともちゃんと考えてくれてると思う」
「そうね。それは間違いない」
「だったら、茜ちゃんも馬場ちゃんの事考えてあげないとね」
「馬場くんの事?」
「好きな人にどうされたら嬉しいのか。ちゃんと大事にしてくれる人なら、こっちも大事にしないとね」
「大事に……かぁ」
思えば、私は与えられることを当たり前のように思っていたのかな。
下手にちやほやされてばかり来たから、大切に育むことが上手じゃない。
だから、すぐに愛想つかされてしまうんだ。
「自信ないわ、私」
「やってみなきゃ始まらないわよ」
さらりと言ってのける美咲ちゃん。
そうね、理解はできる。
でも、飛び込む気になれないのは、今の状況が心地いいからだ。
いつまでもこのままではいられないけれど、男女の関係になってから関係を長続きさせる自信がどうしても持てない。
付き合い始めた途端に、私には終わりが見えてしまう。
だったら、始めなければいつまでも夢が見れるような気がする。
「でももうちょっとだけ、このままでいたいかな」
もし許されるなら、とてもスローテンポに。
少しでも長い間一緒にいられるように。
「……まあ、茜ちゃんが決めることだけどね」
美咲ちゃんはそういって苦笑した。
そんな顔をさせてしまう自分に、内心で少し落ち込む。
幸せな家庭の作り方が、私には分からない。