キミが欲しい、とキスが言う
「店長、こっちお願いします」
「ああ? なんだよ」
「いいから、ちょっとこっち来てください」
光流くんの声に、橙次は渋々厨房へ戻っていく。
気が付けば店舗側にいるのは私と馬場くんだけだ。
「……数家は空気を読むからいい」
ぼそりと馬場くんがつぶやき、表情を和らげた。
途端に気恥ずかしくなって、味もよく分からなくなってきた。
「どう? 茜さん」
「とりあえず冷たいのはいい。ビールと合いそう」
「じゃあ、今度の休み一緒に飲もうよ。俺作るし。橙次さんのより絶対旨いし」
一気にまくしたてたと思ったら、ちらりと私の顔をうかがう。
もしかして、橙次に対抗していたのかしら。意外とかわいいところあるんだな。
そんな子供っぽいところも、今やときめく材料になるとか、あり得ないな。
気が付けばもう重症なところまで来ているのかもしれない。